【170年の歴史】リセッションとS&P500と逆イールド→適切な投資行動を考える

2019年3月28日

ゆう(@yu_kabu_life)です。

「景気後退期は近いの?」「リセッションで株価は暴落するの?」「リセッションの最適な投資行動を知りたい」「逆イールドカーブって何?」「米国債3ヵ月物の逆イールドって初めて聞いたけど?」←こんな人に参考になる記事です。

2019年3月22日、米国債3ヵ月物と10年物の利回り逆転が発現したことを受けて、景気後退期(以下、リセッションという)が到来するのではないかと報道が飛び交いました。

市場は大きく動揺し、22日のS&P500指数は前日比-1.9%と急落しています。

はてな

米国債「10年-3ヵ月」が逆転したそうです。

この事態を受けて個人投資家はどう行動すればよいのでしょうか?

今回は、米国株式市場におけるリセッションの歴史を1850年まで遡って振り返りながら、S&P500と長短金利差の具体的なデータとともに個人投資家のとるべき最適な投資行動を考察していきます。

僕も実際に2,200万円(2019年3月時点)ほど米国株式市場へ投じて資産運用していますので、今とるべき投資行動を整理したいと思います。

先に結論から申し上げてしまいますと「逆イールド発生」は「SPXL買い増しのシグナル」として捉えることが可能です。SPXL投資家の皆さんは、ぜひ最後まで読まれていってください。

それでは、以下ご覧ください。

そもそも景気後退期(リセッション)とは何か?

リセッションを恐れる前に、まずリセッションというものを正しく理解しておく必要がありますので簡単におさらいしてみます。

リセッションとは

景気後退期のことですね。

資本主義社会では景気の拡大期と後退期を繰り返しながら経済が拡大していきますが、景気後退期とは景気がピークを打ってからボトムへ向かう過程のことを指します。

リセッションの判定基準

欧米ではリセッション入りしたことを判定する基準は、一般的に国内総生産(GDP)の前年比が2四半期連続でマイナス成長となった場合に、リセッション入りしたものとみなされます。

GDPの2四半期連続マイナス成長という基準はよくニュースでも出てきますのでご存知の方も多いと思います。

・・・ところが、実は違います。

米国のリセッションを判定している機関は、NBER(National Bureau of Economic Research、全米経済研究所)になります。

1920年に設立されたNBERは民間団体になります。独自に景気判定をしていましたが、1961年に米国政府から正式な景気判定指標として採用されました。

NBERによると、リセッションの判定基準にはGDPの動向も当然参考にするのですが、その他にも「経済全般に渡って下降期にあたること」「数カ月以上の持続的な下降期であること」「その他の指標も明確な下降を示していること(雇用、鉱工業、製造業、卸売、小売、等々)」など、GDPの他にも様々な経済指標を総合的に勘案してリセッションを判定するとしています。

GDPだけで判断するものではないということです。

NBERは十分な期間をもって経済動向を観察してリセッションの開始と終了を判定をしますので、多くの場合は実態経済よりも遅れて発表されることになります。長いと1年後、2年後といった発表になることもあります。

市場はNBERの正式判定を待っていられませんので、簡便的にGDPのマイナス成長でリセッション入りしたことを「みなし判定」しているわけです。

GDPは速報値で発表されますが、翌月に修正報が発表され、翌々月に確定報となります。速報値は後から訂正されることがあります。

過去にも2001年に速報値ベースでリセッション入りと判断されましたが、その後GDPが訂正されたことで2四半期連続マイナス成長ではなかったといったケースが起きていますので、速報ベースの判定結果は訂正されることがあることに注意が必要です。

ポイント

リセッションの判定基準である「GDPの2四半期連続マイナス成長」は簡便法です。

後日訂正されることがあるので注意しましょう。

米国リセッション170年の歴史(1850年~2019年)

前述したNBERから米国における計測可能な1850年からのリセッションに関する資料が公開されています。

その資料を元に過去169年のリセッションを以下にまとめました。

(単位:月)

1850年以降のリセッション期間①リセッションの長さ
(ピーク→ボトム)
②リセッション前の景気拡大期間
(ボトム→ピーク)
1857年6月~1858年12月1830
1860年10月~1861年6月822
1865年4月~1867年12月3246
1869年6月~1870年12月1818
1873年10月~1879年3月6534
1882年3月~1885年5月3836
1887年3月~1888年4月1322
1890年7月~1891年5月1027
1893年1月~1894年6月1720
1895年12月~1897年6月1818
1899年6月~1900年12月1824
1902年9月~1904年8月2321
1907年5月~1908年6月1333
1910年1月~1912年1月2419
1913年1月~1914年12月2312
1918年8月~1919年3月744
1920年1月~1921年7月1810
1923年5月~1924年7月1422
1926年10月~1927年11月1327
1929年8月~1933年3月4321
1937年5月~1938年6月1350
1945年2月~1945年10月880
1948年11月~1949年10月1137
1953年7月~1954年5月1045
1957年8月~1958年4月839
1960年4月~1961年2月1024
1969年12月~1970年11月11106
1973年11月~1975年3月1636
1980年1月~1980年7月658
1981年7月~1982年11月1612
1990年7月~1991年3月892
2001年3月~2001年11月8120
2007年12月~2009年6月1873

<NBER資料より作成>1850年~2019年の米国リセッション

表の見方としては、「①リセッションの長さ(ピーク→ボトム)」はリセッションの開始から終了までに経過した月数を表しています。

「②リセッション前の景気拡大期間(ボトム→ピーク)」は、前回リセッション終了から今回リセッション開始までに経過した月数を表しています。

各期間の平均

  • 1854年~1919年(16サイクル) :①21.6 ②26.6
  • 1919年~1945年(6サイクル) :①18.2 ②35.0
  • 1945年~2009年(11サイクル) :①11.1 ②58.4

1850年以降、現在に至るまでの169年間でリセッションは33回発生していました。

これを見ると、年月を経過するほどに段々と「リセッション期間が短くなっていく」「景気拡大期間が長くなっていく」という傾向にあることが顕著です。

リセッションとS&P500の150年(1870年~2019年)

リセッションや逆イールドの歴史も興味深くはありますが、個人投資家にとっては何よりも投資リターンがどうなるかということが一番気になるところです。

下図をご覧ください。S&P500の1870年~2019年現在までの超長期チャートに、前述した過去のリセッションをプロットしました。グレーの網掛けはリセッション期間です。

<NEBR資料より作成>1870年~2019年のS&P500指数とリセッションの関係)

超長期チャートは平坦な線になってしまい値動きが見えませんので、騰落率が視覚的に捉えやすいように上図のみ対数チャートで作成しています。

参考

「対数って何?」という方には「相場過熱の見分け方│S&P500チャート150年と仮想通貨バブルを対数チャートで確認する」の解説を参考にしていただけます。

さて、このチャートを見てみると時代が進むにつれてリセッションの期間が短く、そして景気拡大期が長くなっていることが視覚的にもよく分かると思います。

特に赤線で示した1914年を境にして時代が大きく変わりました。

1913年の連邦準備法制定を受けて、1914年に連邦準備制度理事会(FRB)が設立されたことで景気調整機能が強化されたためです。

FRBの存在しない1913年以前に発生したリセッションは、あまり参考にすべきではないと考えますので、これ以降は除外して考察していきます。

FRBは世界一有名な中央銀行ですので何をか言わんやですが、以下の記事では「一般に語られないFRBの側面」について言及しています。興味のある方はぜひご覧ください。

リセッションとS&P500長期チャート(1914年~2019年)

1914年以降に発生した計18回のリセッションにおいて、どのようにS&P500指数が推移したのか見ていきます。

下図をご覧ください。チャートの動きを分かりやすくするために20年~30年ごとに区切っています。

各時代ごとのリセッションとS&P500指数の関係

このチャートをざっくりと目視で眺めて、リセッション期間中に直近高値から大きく下落した経緯があれば下矢印(赤線)をプロットし、大きな下落なく上昇基調が継続していれば上矢印(青線)をプロットしてみました。

そうするとリセッション全18回のうち、14回は下落相場でしたが、4回は上昇相場だったということが分かります。

普通はリセッションと言えば株価下落をイメージすると思います。実際に今もリセッションに備えてキャッシュ比率を増やすことを勧めるアナリストやインフルエンサーなど多く見受けれますね。

上図を見ても、8割方はリセッションに備えておいて間違いではなかったと言えるかもしれません。しかし、残り2割は下落することなくスルスルと株価が上昇しています。

職業投資家や機関投資家、もしくは一部の才能ある個人投資家は機敏に方針を変えて相場に乗っていくこともできるのかもしれませんが、多くの個人投資家にとって一度キャッシュに変えたものが売値に戻らず値上がりし続けるパターンは買い直すタイミングを逃しがちです。

キャッシュ比率を高めた個人投資家は指をくわえて上昇相場を眺めることになったかもしれません。

個人投資家は長期的な資産形成を目的に投資していることを考えれば、リセッションの恐怖や短期・中期的な投資判断で市場から離れてしまうことは得策とは言えません。

リセッションの先行指標となる逆イールドカーブ(長短金利の逆転)とは

そもそも逆イールドカーブとは何かということについては、当記事での説明を割愛させていただきます。以下の記事で解説していますので、よろしければご覧ください。

さて、一般的にリセッションの先行指標としては、「米国債10年と米国債2年」の利回り逆転(逆イールドカーブ)が用いられます。

ところが2019年3月22日に「米国債10年と米国債3ヵ月」の利回りが逆転すると、市場は一気に動揺しました。

これは以前にサンフランシスコ連銀がリセッションの先行指標として「米国債10年と米国債3ヵ月」が有効であるとする論文を発表していたためです。

実際に3月25日時点のイールドカーブを見てみます。

<FRB資料より作成>3月25日時点のイールドカーブ

確かに「10年-3ヵ月」の利回りは逆転していますね。しかし、「10年-2年」は逆転していません。

今度は、「10年-3ヵ月」と「10年-2年」の金利差をチャートにして比較してみます。

<FRB資料より作成>1976年以降の長短金利差「10年-3ヵ月」「10年-2年」

メモ

なお、米国債3ヵ月は1981年12月以前のデータがなく、米国債2年は1976年5月以前のデータがありません。少し調べたところ理由は分かりませんでしたが、おおもとのFRBの公開データに存在していませんので無いものと判断しました。

上図をみると、これまで「10年-3ヵ月」の方が遅れて逆転していたことが分かります。

しかし、今の状況は「10年-3ヵ月」だけ先に逆転していますよね。これまでなかった初めてのケースのようです。

これでは「10年-3ヵ月」の逆転ではリセッションの予兆と判断することはできません。

ポイント

リセッションの先行指標としては「米国債10年-米国債2年」の動向を注視していれば良いでしょう。

逆イールドカーブとリセッションとS&P500(1978年~2019年)

まずは1988年~2019年に発生した過去3回のリセッションにおいて、逆イールドカーブ(「10年-2年」の逆転)とS&P500がどのような関係性になったのか詳しくみていきます。

先にグラフの各項目の説明を掲載しておきます。

項目説明

①逆イールド発生日:米国債10年と米国債2年の利回りが逆転した日

②逆イールド~リセッション:逆イールド発生日からリセッション開始までに経過した月数

③リセッション期間:リセッション開始から終了までに経過した月数

④リセッション終了~次回リセッション:リセッション終了から次回リセッション開始までに経過した月数

⑤逆イールド~ピーク:逆イールド発生日からS&P500がピークをつけるまでに経過した月数と騰落率

⑥ピーク~ボトム:S&P500がピークをつけてから底値をつけるまでに経過した月数

⑦最大ドローダウン:S&P500がピークから底値までのパフォーマンス

⑧ボトム~ピーク回復:S&P500が底値をつけてからピークを回復するまでに経過した月数

⑨ピーク回復~次回逆イールド:S&P500がピークを回復してから次回の逆イールド発生日までに経過した月数と騰落率

1988年12月13日に発生した逆イールドカーブ

下図をご覧ください。1990年7月にリセッション入りする前に、1988年12月13日に発生した逆イールドカーブ現象を起点にグラフ・チャートを作成しています。

1988年12月13日に逆イールドカーブ発生

①逆イールド発生日1988/12/13
②逆イールド~リセッション18.8ヵ月
③リセッション期間9.0ヵ月
④リセッション終了~次回リセッション120.9ヵ月
⑤逆イールド~ピーク19.3ヵ月
+33.53%
⑥ピーク~ボトム2.9ヵ月
⑦最大ドローダウン-19.92%
⑧ボトム~ピーク回復4.2ヵ月
⑨ピーク回復~次回逆イールド88.6ヵ月
+196.47%

1998年5月26日に発生した逆イールドカーブ

下図をご覧ください。1998年5月26日に発生した逆イールドカーブ現象を起点にグラフ・チャートをまとめたものです。

1998年5月26日に逆イールドカーブ発生

①逆イールド発生日1998/05/26
②逆イールドからリセッション33.7ヵ月
③リセッション期間9.1ヵ月
④リセッション終了~次回リセッション73.1ヵ月
⑤逆イールド~ピーク22.3ヵ月
+39.62%
⑥ピークからボトム31.0ヵ月
⑦最大ドローダウン-49.15%
⑧ボトムからピーク回復56.5ヵ月
⑨ピーク回復~次回逆イールド-17.3ヵ月
-17.89%

2005年12月27日に発生した逆イールドカーブ

下図は2005年12月27日に発生した逆イールドカーブ現象を起点にグラフ・チャートをまとめたものです。

2005年12月27日に逆イールドカーブ発生

①逆イールド発生日2005/12/27
②逆イールド~リセッション23.5ヵ月
③リセッション期間19.2ヵ月
④リセッション終了~次回リセッション
⑤逆イールド~ピーク21.7ヵ月
+24.56%
⑥ピーク~ボトム17.2ヵ月
⑦最大ドローダウン-56.78%
⑧ボトム~ピーク回復49.3ヵ月
⑨ピーク回復~次回逆イールド

1978年~2019年の計5回まとめ

グラフを作成していない過去2回1978年と1980年に発生した逆イールドも含めて一覧にまとめましたので以下ご覧ください。

この5回の経験則から以下のようなことが読み取れます。

  • 逆イールドカーブ発生してからも株価はしばらく上昇を続ける
  • 「S&P500ピーク時期」と「リセッション入りの時期」に関連性は見受けられない、いつ株価がピークをつけるか予測不能
  • S&P500ピーク時のパフォーマンスは11%~39%とまちまち、どこまで株価が上昇するか予測不能
  • 5回のうち、4回は逆イールド発生日の株価よりも下落した
  • 5回のうち、1回は逆イールド発生日の株価まで下落しなかった
  • 4回のうち、4回とも「逆イールド発生時」に対して、「次回の逆イールド発生時」の株価はプラスリターンになっている

逆イールドカーブで個人投資家のとるべき投資行動とは

これまで見てきたことを踏まえて、個人投資家の適切な投資行動を考えてみます。

1914年以降に発生した計18回のリセッションにおいても約20%は下落せず上昇相場を形成していました。また、逆イールド発生後もS&P500は上昇を続ける可能性が高いこと、加えて20%の確率で逆イールド発生時の株価を下回りませんでした。

これらのことから売却という投資行動は悪手であると言えます。

逆イールド発生時点の株価は割安であるということが言えます。

リセッション期間中をとってみてもS&P500ピークよりも割安ということになりますし、場合によってはピーク後の底値に近い割安水準のケースもありました。最も悪いケースであった2005年をみても、ピークから-19.7%水準の株価です。

よって、追加資金があってリスクをとれる投資家は逆イールド発生時点で買い増しが良策でしょう。ただしリセッション中に逆イールド発生時点の株価を抜けて底値をつけにいく可能性が高いため、段階的に買い増しできるように一度に資金を投下せず余力を残しておくべきです。

リスクをとれない場合でも、最低限ホールドですね。パニックになって狼狽売りすることだけはないようにしたいところです。

S&P500の歴史は「SPXLの歴史」でもある

弊ブログで提唱する「SPXLリスクコントロール・ポートフォリオ」は、S&P500よりハイリターンかつSPXLよりローリスクの運用成果が期待できるものです。

ご存知のとおりSPXLはS&P500指数に連動したブル3倍レバレッジETFですので、当然ながらS&P500に連動した値動きをします。

つまり、S&P500の歴史は「SPXLの歴史」でもあるわけです。

今回の考察によって逆イールド発生時の最適な投資行動は「買い」だと解釈することができるのならば、SPXLリスクコントロール・ポートフォリオにとっても「買い」であると言えます。

あくまで個人的な考察と解釈によるものですので、読者の皆さんに確実な運用成績を保証するものではありませんが、何かの参考にしていただければ幸いです。

僕は逆イールドをSPXLリスクコントロール・ポートフォリオ「買い増しのシグナル」にしようかな

SPXLリスクコントロール・ポートフォリオについては以下の記事をご覧になってください。

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